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五感を刺激される

うだるような夏の昼下がり
逃げ場を求めて入ったのは、新宿3丁目にある映画館

快適な椅子と
落ち着いた館内に癒されつつも
その映画がスクリーンに映し出されるのを待つ。

Le Grand Bleu(グランブルー)
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かつてはダイバーだったという、リュック・ベッソンの名を世界的なものにした
80年代の名作である。

オリジナル・バージョンだの
英語バージョンだの
ロング・バージョンだの
いろいろなものが出回っているのもあって、
なぜか私には無縁の映画だった。

それでもどこか胸の奥底で、気になっていたのも事実。

オープニングはギリシャが映し出される
島と海
白い建物
海底に棲む魚たち

それらが白黒なのが、これまた憎いところ。

主人公たちの少年時代が表現されていた。

ステレオタイプで、
どこか不自然な演出が気になると言えば、気になったけれど
何よりベッソン監督の「自分の表現をしたい」という意欲が全面的に現れていたように思う。

そして、海中が映し出される場面は、
どこをとっても、ベッソンの素直な愛情があふれていたように思う。

素潜りで100メートル海を下っていく男たち。

命の危険を承知しながらも
「グランブルー」と呼ばれる海中に魅了されている
彼らはこう言う。

「戻る理由が見つからない」

実在のフリーダイバー、ジャック・マイヨール(日本ともゆかりのある人)をモデルにしているといわれている

もちろん脚色されているので、本人の人生とは違うものだけど、

劇中のジャックを演じたJ.M.バールのまなざしがいい。

純粋で美しい目だ。

彼は海とイルカをこよなく愛する男だけれど

少年のような笑顔で、
「君はイルカに似ている」
なんて言われたら、私だって惚れてしまうだろう。

でも、そう言う、何かに情熱を注いでいる人に惹かれる気持ちもわかるのだけれど
そういうタイプの人に恋したら、つらさも引き受けなければならないだろうな。

少しばかり歳をとって、学んだ私はずっと思っていた。

愛していても
相手がそちらに情熱を割いている限り
「私の方を見てくれない」
「でも、邪魔はしたくない」
という葛藤と闘うのだから。

結局、ジャックは人間の女性ではなく
イルカ(海)を選んだ。


この映画は、暗闇に浮かぶ大画面で見るのがいい。

視界いっぱいに広がる
海中の青
光の届かぬ海底
イルカと泳ぐジャック

地上にあるものは、何も敵わないと思わせてしまうほど美しい


五感に訴えてくる映画で、
夜、寝ては覚醒を繰り返していた私は
何度もその時の感覚を体で蘇らせていた。

一夜明けた今日も
その感覚を引きずっている。

by nomadmurasaki | 2010-08-18 18:03 | cinema